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人間の臨床医のつぶやき
情報掲載日 2018/10/30
最近、落ち込むことがあった。こうして公に語るのも気が重いが、誰かにとって学びがあればと思い、書くことにする。

 1型糖尿病の患者さんを診た後に、その患者さんが「見下されているような感じがした」と、私の上司である医師に報告したのだ。

 確かにその患者さんは、40年間以上も1型糖尿病と共に生きてきていて、糖尿病に関しては私よりもある意味プロである。彼女はいわゆるBrittle Diabetes※1で、あまりに頻繁に低血糖に陥るせいで体が慣れてしまっていて、めまいや空腹などの警告症状が起こらない。低血糖になっても気が付かず、意識を失って搬送されたこともあった。

※1 血糖値の上下が激しい糖尿病のこと。インスリン抵抗が少なく、少量のインスリン投与やわずかな運動でもすぐに低血糖に陥り、逆に炭水化物を少し口にしただけで血糖値が跳ね上がる。そのため、摂取する炭水化物のグラム計算を少しでも間違えると、血糖値が上下してしまう。

 そんな彼女が、ある日、診察中におもむろに測定器を取り出した。血糖値を測ってみると、なんと33。「うん、やっぱり。今、話している時にちょっとクラクラしたんだよね」と笑う彼女だったが、私の方は青ざめた。

 いつ意識を失ってもおかしくない状況なので、すぐにメディカル・アシスタントに砂糖タブレットやプロテイン・バー※2を持ってきてもらった。「私、こういう添加物が入っていそうなものは普段食べないんだけど」と彼女は嫌がり、「大丈夫、血糖値30台、40台くらいなら慣れているから、私は平気。仕事行かなきゃ」と言ってクリニックを去ろうとするものだから、必死で止めた。

※2 タンパク質を摂取しないと、一旦砂糖で血糖値が上がってもまたすぐに下がってしまう可能性がある。そのため、ひどい低血糖の場合には、まず砂糖を摂取させて血糖値を少し上げてから、タンパク質と炭水化物を補えるドライフルーツ入りのナッツバーなどを食べさせることで、1時間後にも血糖値を保てるようにする。

 しかし、その止め方が良くなかったらしい。具体的な言い方は覚えていないのだが、「危険は危険。今すぐ食べなさい」などと命令したような気がする。ちなみに、病院のポリシーとして、低血糖の患者さんは血糖値が80以上になるまで帰らせてはいけないということになってはいるが、彼女が1人で歩いて出ていこうとしたら、力ずくで止めるというわけにもいかない。

 結局、30分ほどかかって血糖値が80以上に上がった後、予備の砂糖タブレットを持たせて帰らせたのだが、その数日後、私の上司に電話がかかってきたというわけである。「見下されているような感じがした。口の利き方を勉強させた方がいいんじゃない」と。
先輩ドクターの「診察の魔法」とは?
 幸い、私の仕事場で一緒に働いている内分泌科専門医たちは、その上司も含む4人とも理解ある医師たちである(ちなみに、関係があるかは分からないが、4人全員が女性で、比較的小さな子供のいる母親でもある)。

 上司のドクターは、私と患者両方に同情を示した上で、その患者さんが提案したことを教えてくれた。次にそのドクターが彼女を診察する時に、私に観察していてほしいというのである。これを聞いた直後は、恥ずかしいと感じた。今まで、患者さんに対して態度よく、理解ある医療者であろうと長年努力してきたのはもちろん、患者の満足度アンケートでも、その点においては比較的高得点をもらっていた。ライフコーチングを通して学んできた経験も(関連記事:日々の診察にコーチング手法を取り入れよう!)、どうやって患者を尊敬するかということに役立っていると自負していた。そのためこの提案を聞いて、恥ずかしさでいっぱいになってしまったのだ。

 しかし、NPになって何年経とうが、学ぶことはたくさんある。加えて、この上司は私よりも長い経験があるだけでなく、長年診ている患者さんからの評判も非常に良い。彼女の「診察の魔法」を学べる良い機会だと感じたので、提案された通り、その患者さんの次の診察時にシャドー(観察)をさせてもらった。

 私が入っていくと、患者さんは「あら、本当に一緒に来たの。この間はごめんなさいね」と声を掛けてくれた。お互い気まずい思い出であるのを、察知してくれてのことだろう。

 さて、上司の医師の言葉に注目すると、「あなたはこんなこと、もうとっくに知っているだろうけれど…」「ご存じの通り…」「あなたには言う必要ないかもしれないけれど…」といった言い回しを頻繁に使う。なるほど、何十年もこの病気で生きてきた人にアドバイスする時には、どんなに本人の糖尿病のマネジメントがめちゃくちゃでも、長年病気のことを考えながら生きてきたことに敬意を払うのか。患者さんを「エキスパートの仲間」として扱うのである。

 上司が後に言っていたことだが、こうした言い回しは相手をよく見て使うのが非常に重要だそうで、患者さんの教育レベル、職業、医療者への期待(専門家として指図してほしいのか、相談相手となってほしいのか)によって判断しなければならないという。

 特に、子供の時に診断されることが多い1型糖尿病の患者さんは、長年何人もの内分泌科専門医にかかってきて、バーン・アウト(頑張りすぎて心が擦り切れ、意欲を失った状態)している人が非常に多い。そんな人がアポ通りに来院してくれただけでも感謝しなきゃ、と上司は言っていた。

 ちなみに、あのような低血糖の患者さんを引き止める場合は、どう言ったら良かったのだろうか? 上司だったら、このように言うそうである。

 「もちろん、あなたが低血糖の扱いに慣れているのも、今あなたが砂糖タブレットをかじりつつ運転しても多分大丈夫なのも、承知の上よ。でも、万が一…、万が一よ、あなたが職場まで運転している途中で、低血糖のせいで何かあったら、私はこの先、一生自分を許せないわ。だから、私のために、私を安心させるために、もうちょっと血糖値が上がるまで待ってくれる?」

 なるほど、よく言われることだが、医療は科学ではなくアートである。一生学び続けてこそ、より多くの患者さんを助けることができるはずだ! 恥ずかしさを乗り越えようと、そうやって自分を鼓舞している。


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