2022/02/01
先日、諏訪湖クラブの林正敏さんから、作成した「オオワシのグル」の記録という冊子をいただきました。
1996年に諏訪湖に初飛来したオオワシは、そのあとも冬の使者として遠くロシア極東からはるばる諏訪湖を訪れ23年間にも及びました。
1999年、諏訪湖に浮いていたオオワシを連絡を受けて保護した林さんは、当院を訪れ何とかしてほしいと頼まれました。
それはそれは初めて見る、見事な美しい大型の野生のオオワシの若鳥でした。
生命の危機にあることはすぐにわかったので、すぐに手術室に運び、保温に努め同時に、身体検査・血液検査・血液ガス分析、ビタミン入りの点滴投与と抗生剤を投与し、酸素吸入と血圧や心電図のミニターを行いました。安定したところで全身のレントゲン検査を行いました。
重度の衰弱と低体温。低血圧・意識レベルの低下・低たんぱく血症や貧血は認められましたが、骨折等の外傷はなく、輸血もする必要もない程度の貧血でした。レントゲンや血液検査からとりあえずは鉛中毒もなく、精密検査の結果何らかのアクシデントに見舞われ、冷たい諏訪湖に長時間使っていたためショックと低体温と低血圧を起こし脱水が進行し、意識レベルが低下したと診断しました。
あとは、とにかく保温と酸素吸入と点滴とビタミンミネラルと抗生剤を投与し、温かいストレスのない場所で不眠不休の看護と強制的に胃に給仕を行い続けるしかないということを林さんに説明しました。
これは言うのは簡単ですが、鳥と野生の鳥とオオワシに対する深い知識と経験と、強い愛情と行動力が求められる作業です。
尊敬する、真のナチュラリストであり、鳥を愛し理解し勉強を重ねてきた林さんの超人的な介護と看護と治療が始まりました。
助かるかどうかは50%と考えていましたが、懸命の林さんの力によって世界でもほとんど例を見ない、瀕死のオオワシの生命がよみがえったのです!!!
林さんの懸命の治療が奇跡を起こしたと思いました。
それから徐々にオオワシは自分で食べるようになり、立ち上がり、羽ばたき、リハビリテーションによって飛行訓練の練習も始まりました。
その壮絶な看護と治療とリハビリは2か月以上に及び、大鷲の野生の驚異的生命両区はぐんぐん加速度的に回復していき、ついに大勢の人々に見守られながら大空へと飛び去って行きました。
と沖からその姿を見て涙があふれてくる感動で胸がいっぱいになり、野生の生命力とそれを救った林さんの愛情と努力に感謝したことを今でも思い出します。
これは、その救助から放鳥までの驚くべき記録であり極めて貴重な資料であるばかりでなく、長野県民みんなに愛され見守られそして人間たちに希望と勇気と感動とをその生きることそのもので与えていき今なお人々の心の中に生きて飛び続けているかの証の記録でもあります。
ここに人間社会や文明への警鐘だけではなく、今後の未来の人間と自然とのあるべき姿が込められている気がしてなりません。
このオオワシは、「グル」とみんなから呼ばれ愛されて20年以上もこの諏訪湖に毎年姿を見せて私たちに勇気と感動を与えてくれました。
その小さなお手伝いをさせていただけたこと、林さんが当院を信頼して連れてきたこと、全力でスタッフと初めてのオオワシの検査治療と生態と正常値を調べ診断に至ったこと。すべては「グル」が導いてくれたことに心から感謝し、謙虚に自然に、動物たちに向かい合っていこうといま改めて心に刻み付けています。
このような素晴らしい記録と資料をご多忙の中作成してくれた諏訪湖クラブの皆様に、そしてグルを愛してくれたすべての人たちに感謝したいと思います。 img011img001img005 2022年2月1日
岡谷動物病院 院長 佐々木厚